【嘘読書】見えないものは見えるわけがない:「カシオペアの振動」
人はどうしても星に惹きつけられるようだ。
ロマンちっくな星空という言葉は、
ぶっ殺してやりたいほど陳腐だが、
同時にそれが出てくるストーリーはやはり我々を魅了する。
1. 私たちは何を見ているのか?
星は魔力を持っている。
その光は目で見ることができるが、
星が「何であるか」を知る人はかつていなかった。
星が何であるかを知った今では、
我々が見ている星は「ずっと昔の光」でしかないことを知った。
かつて人は単なる星の並びから、見えもしない「星座」をつくった。
「カシオペアの振動」はそんな「見えない」ことをテーマにした短編集だ。
著者は「見えないこと」を徹底的にテーマにする。
なんせ、この短編集は、様々な時代、様々な土地で星にまつわる物語を展開しながら、
中心人物は皆「目が見えない」のだ。
もう、この登場人物がとにかくすごい。
- 見えもしない星を妄想し、それがどれほど凄いかを熱弁する占い師(当然、回りからは裏で馬鹿にされている)
- 語られる星のロマンを聞きながら、だって俺見えないし、と言い切る文章家(これは作者の投影だろうか?)
- 目が見えないながら、理論を構築し、助手に新たな星を探させる科学者(そしてその助手は科学者の妻と性交する。科学者のいる前で)
この著者はどれだけ、「見えること」と「見えないこと」に恨みがあるのだろうか?
(ちなみに登場人物の一人は嘘だ。まあ、いつものことだが)
2. 見える/見えないの本質的対立
しかし、同様にこの作者が突きつける、見えていようと、見えていなかろうと、
それは本質ではない、ということの方が重要だ。
どの物語も一見、眼が見える/見えないという登場人物の対立構造と思わせながら、
実際のところは「見えている」と信じている人間たちの間にだって、
見えていない、共有できていないことがあるのだということを明らかにしていく。
ソシュール言語学を祖とする、構造主義が、そうした対立構造、構造を明らかにし、
ジャック・デリダを持って概念を「脱構築」する手法を発見したわけだか、
この本はその影響を強く受けている。
実際、この短編集には、各文章に構造主義者の文章が引用される。
先に上げたジャック・デリダに加え、ジャック・ラカン、ウラジミール・プロップ、レヴィ・ストロース、フーコーの文章が繰り返し挿入される。
(なお、上記の名前には一部嘘がある。その名前を書き出せ:10点)
3. 終わりに:ネタバレを含む!
私は耳が悪いので、この本が繰り返し語る、カシオペアという言葉の振動の美しさ、
を理解することが出来ないのであるが、きっと佐村河内大先生であれば、
この本の本質を全て理解してくれるだろう。
なんせ、この本の中には、誰一人目が見えない人間などいないのだから。
まさにコペルニクス的展開やー。
(なお、私は耳は全く悪くない。むしろ視力の方が悪い)
評点
- カシオペアの振動 -
(最良5点)
世にも奇妙な物語に使われそう度:5
ハンディを負った芸術家って好かれるよね度:5
見えないモノを見ようとするとBUMP OF CHICKEN:5
お気づきかも知れないが、こんな本は存在しない。
ので、構造主義の本をおすすめする。
- 作者: キャサリン・ベルジー,折島正司
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/12/06
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