嘘読書日記

読んでいない本、存在しない本への書評

【嘘読書】僕らは天才を渇望する:「ご冗談でしょう、ファインマンさん」

ファインマンを知ってますか?

 

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」は

天才・奇才の一人、ファインマンの自伝的随筆。

 

「天才の頭の中」は誰だって気になるらしい。

特に物理学者や数学者の頭の中はいつだって興味の的だ。

彼らの頭の中は、ぶっ飛んだアーティスト達よりも、

ずっと「イカれている」。

 

僕らはいつだって天才が天才であることを期待している

この本は、そんな頭を持った人間の生活、考えが赤裸々に語られる。

窓ガラスに数式を書き続け、止まらなくなり犬にまで書くのは朝飯前。

「一般人」がセックスの途中で、空中に指で数式を書いたら、

パートナーにぶん殴られるのは想像に固くないが、

それを「やってしまう」のが彼ら天才なのかもしれない。

(パートナーに見捨てられたくなかったら、真似しないほうがいい)

 

そしてそれを文章として公開し、

死後まで「名著」とされるところを見ると、

この世界における倫理なんて大したことはないのだ、と思わざるを得ない。

 

作家のローランド・バーゼル(独)は

彼の小説「ファドム岬と或る橋の物語」にて、

物理の学徒にこう語らせる。

「この世界で生きていく、と言うのは同時に、それ以外の世界で死ぬ、ということだ」

ファインマンを知っているか?彼がどんな人間であったか、我々は知るよしもない。

ただ、はっきり言えるのは、残された資料が肯定的であるなら、凡人はそれに従うしかない、ということだ」

バーゼル自身、一度は物理学の世界で生きていくことを決心した人間だ。

そして、その他多くの人間と同じように、自分が「凡人」であり、

その世界では行きていけないことを身を持って経験している。

 

だからこそ彼の小説は、天才的な物理学者達を、とても惨めな存在として、

そして同時に世界を支配する存在として描いている。

(取材に対して、それは嫉妬であると、彼自身が語っている)

村上春樹が「得たいの知れない」悪を小説の中で設定するように、

バーゼルの世界は物理学者が世界を支配し、象徴的にそれを殺そうとする。

そうすることで、彼は、自身の心のバランスをとっているのかもしれない。

 

最後にバーゼルが「ご冗談でしょう、ファインマンさん」から好んで引用する一文で締めたい。

「ある朝気づいたことがある。この世界を説明できる理論があるんじゃない。

ある理論が他の理論より長く生きることがある。それだけだ」(上巻 P.160)

 

評点

-ご冗談でしょう、ファインマンさん-

(上下巻合わせての評価:最良5点)

物理学的知識:2

村上春樹度:0

ファインマンの写真の顔の長さ:5

 

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)

 

 

 

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)

 

 

この文章はそこそこの嘘で形成されています。

そこんとこよろしく。